★平成ニッポンいいひと列伝#5篠原涼子さん

とにかく瞳が素晴らしいのです。皇室関係の番組で手紙を朗読してもらいました。他人が書いた手紙の朗読はむつかしいものです。セリフでもないしナレーションでもない。その人物になりきってもいけないし、かと言って客観すぎてもいけない。どこまで入り込むかが勝負どころ。撮影前にそんな話をした時、篠原さんは「とてもよくわかります」と言って緊張する現場を和ませてくれました。真っ直ぐにこちらの顔を見るのです。「きっと目が悪いんだよ」と言ったのは一緒に番組を作っていたプロデューサーさん。「そうかもしれないけどそれを言っちゃおしまいだよ」と言ったのは撮影の段取りの打ち合わせで彼女に見つめられたカメラマンさん。スタッフは視線の取り合いでした。「瞳で殺せるというなら篠原涼子をおいて他にないでしょう」とは美術さん。
何度でもリテイクを嫌がらないのです。「篠原さん、もうちょっと入りたい」と言えば「はいっ!もう一度お願いします」。その瞳に見つめられたいものだからスタッフは誰彼となく彼女に声をかける。手紙の朗読のいちばん肝の部分では何回もリテイクをしました。なんだか物足りないのです。彼女もそれがわかっているようで素直にリテイクを重ねてくれる。その代わり撮影時間はどんどん押していく。やっと何が足りないのかわかったのは5回目のリテイクの時。朗読が終わった瞬間、彼女はふと手紙から視線を上げ空間をじっと見つめたのです。偶然を必然にするのはビートルズの得意技ですが、レコーディングで起きた偶然をそのままレコードの溝に焼き付けた彼らのように、彼女がふと空間を見つめたその偶然が「足りないもの」だったのです。女優の本能か。その視線のおかげで「はいっ!オッケー!」。
編集で可能な限りその視線を長く使ったのは言うまでもありません。それはまるで計算された必然の如し。「あれはきっとボクを見つめてるんだ」と言ったのは編集マン。篠原さん、素敵な偶然をありがとう。

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